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2001年からブリュッセル在住の、日仏カップル。日・仏・白の話題を織り混ぜた、とりとめのない日記です。


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「RTBFショック」について
20061216120000.jpg今週は外出続きで、問題の放送をリアルタイムでは見ていなかったし、まとめ辛い内容でもありますが、やっぱり書いておこうと思います。

13日(水)の夜、RTBF(ベルギー、フランス語共同体の公共ラジオ・テレビ局)は、運営する3つのテレビチャンネルのうちの一つLa Uneで臨時ニュースの形で架空の内容を約1時間半に亘り報道しました。

「フランダース地域(オランダ語圏)が一方的に独立を宣言し、ベルギーという国は事実上消滅した」という内容で、次々に人の集まるフランダース・ワロン両議会から、また「王はこれ以上の統治が不可能として国外へ」との設定で王宮から生中継まで挟んだ大真面目な演出に、初めは本気にした人も少なくなかったようです。もともと、この国は長くないだろうと思っている人も結構いるので、信憑性があったのでしょう。そしてRTBFのWebサイトはこの夜、アクセスが集中して接続が困難な状態になったり、いくつかの大使館は本国へ連絡しようとするなど、ちょっとした騒ぎとなりました。

中継では、ブリュッセル市内から郊外(オランダ語圏)へ向かうトラムは突然停車し「新たな『国境』が閉鎖されているので、ここから先は走れません」と乗客を本当に降ろしている場面も映り(やーでもTVカメラが初めからトラムに乗ってるの、変でしょ・・)、警察官たちが慌てている様子(大げさなフレーズをわざとらしく滑舌よく話していて笑えました。「オランダ語圏との国境近くへは、防弾チョッキ着ていった方がいいのかな?」とか・・笑)、ベルギーの有名人や政治家数人にも「フランダース独立宣言」についてインタビューするなど、数ヶ月前から準備したという苦労が伺えました。

局側の言い分は、この「フランダース独立」問題は一部の議員の間でばかり扱われているが、決してあり得ないことではないので、国民、特にフランス語圏の住民はもっと積極的に真剣に考え、議論するべきだ、として、このような挑発的手段に出たというもの。国民の政治への関心を促すのも公営放送局の務めである、という主張です。

もともとベルギー人は全体的に温厚で「スルーする能力」には優れているので「オトナだなぁ!」と思わされることも多々あるのですが、裏を返せば議論に弱い、という見方もできます。実際、冷静に議論ができない人が多いというだけでなく(できる人ももちろんいますが)、議論になりそうな雰囲気を嫌う傾向があるのです。フランスなどと比べると、大学に入るまで討論や発表形式の授業が少ないベルギーの教育環境(少なくともフランス語圏の)や、真面目に議論なんかしようとすると「なに頑張っちゃってるの?」って言われるような「事なかれ主義」の空気が、議論を深める機会を奪っているのでしょう。今回の騒ぎも、普段からベルギー分断について考えを持ちつつも、周囲の目を気にして口に出せなかったような人には良い機会だったでしょう。

ちなみに一応、フィクションであることのヒントはいくつかありました。最初に別の番組が中断された際、乱れた画像の合間に黒背景に白文字でハッキリと「これは、フィクションではないかも知れません」の1行が映りましたし、画面上にずっと出ていた番組のロゴマークは、ベルギーのシュルレアリズム絵画である"La Dame au cochon"(冒頭に載せた絵)のシルエット*だったので、勘のいい人はすぐに嘘だと気づいたかも知れません。また、放送開始からおよそ30分後以降は、テロップで「これはフィクションです」と注意書きが改めて出され「この件に関するご意見は、この番号へ」と表示された電話番号に実際にかけると、放送が嘘であることが分かるようにはなっていました。それにちょっと冷静な人なら、すぐに複数のソースをあたることを考えるはず。オランダ語系のチャンネルはもちろん、EU圏内の一国が消滅したなんてニュースが周辺の国でも話題にならないはずがないのに、フランスやイギリスのチャンネルでは全く報道されていませんでした。

とはいえこの挑発的なやり方に拒否反応を示す声が上がらないはずもなく、初期段階から「視聴率を稼ぎたかっただけだろう」「税金で賄われている局が納税者をおちょくるな!」という意見は多数出ました。もっと頂けないのは、今回の企画の発案者が、RTBF(の、もう一つのチャンネルLa Deux)の人間で、ベルギー分断に関する"Bye-Bye Belgium"という本の著者でもあるのです。そしてこの放送のあった2日後の金曜にこの本が出版となっていたことから「税金使って自分の本の宣伝か!」と言われてしまっています(しかし宣伝が露骨すぎる気が・・)。

フランス語共同体の各大臣は、フランス語圏住民への精神的ショック、オランダ語圏との関係悪化のリスク、他国に与えるベルギーの不安定なイメージ、公共放送局の信憑性を失墜させるリスク、さらにこの放送にフランダースの政治家たちが協力していたことなどを指摘し、RTBFを批判しています。欧州サミットで集まってきていたEU各国の首脳らも概ね批判的。一方、RTBFのトップは翌日には、一部の視聴者に不安な感情を起こさせたことについて謝罪し、今日のLa Uneの昼のニュースでは、あの放送を支持する署名が2万6千以上集まっていることや、1938年アメリカでの「宇宙戦争ラジオ事件」の「前例」を、当時の映像を交えながら紹介していました。

もちろん改めて共存の道を訴える声もあり、この日曜予定されているデモには、偽報道の是非を問うものでもフランダースに敵意を表すものでもなく「ベルギーという国が好きである人はとにかく集まろう」という内容のものがあります。フランダースの住民からの「フランダースの全員が独立を望んでいる訳ではないし、全てのワロン人が無能だとも思わない。こんな小さな国、さらに分断したら何もなくなってしまう」というコメントもWeb上で見かけました。

報道のあり方については、ちょっと思い出したことなども含め、色々考えさせられました。

GasPanik TVという、フランスで最近注目を浴びているTV中継サービスがあります。YouTubeと似たようなものと思われがちですが、ここで提供しているソフトがあれば、家庭用のWebカメラやビデオカメラで個人的に「生放送番組」を作ることができます。発信中にスカイプを通じて誰かがコンタクトして来れば、その映像も放映中の画面に映し出し、映像による情報や意見、議論を生で発信することが簡単に出来るのです。ブログよりさらに新鮮味のある表現ができる訳です。ここのスタッフが知り合いなのですが、彼が最近インタビューで言っていたことが印象に残っています。

「こんなに便利なソフトと表現の場ができたのに、ジャーナリズム専攻の学生など、報道に関わりたいはずの人間が使いたいと言って来たことはない。いま『ジャーナリストになりたい』と言っている若者なんて、本当に伝えたいことがあるわけじゃなくて、結局はテレビに出たいだけだったり、人よりちょっと多く稼ぎたいだけなのかも知れない。」

・・・もっとも、本当に伝えたいことがある人は、ジャーナリズム理論を机上で学ぶ暇があったらすでに動き出しているのかも知れませんが。それに、今回のRTBFほど乱暴なことはしないまでも、故意にヤラセや捏造情報を流して黙っている既存の放送局はすでに沢山あるわけです。

そういったことを考えると、一応「伝えたいこと」や「目的」を持って今回の放送に関わったRTBFのジャーナリストたちは、ある意味まだ健全な部分を失わずにいるのかも知れませんね。

個人的には、「これはフィクションです」表示は初めからあっても良かったのではないかと思います。フィクションと分かっていても、本物のアナウンサーや著名人が出てきて公共放送局で臨時ニュースの形を取るとなれば、視聴者の関心は充分ひくことができるし、まるで本当の出来事であるかのように色々考えるきっかけにはなったでしょうから。そしたらこんなに「騙し討ち」として叩かれることにはならなかったと思うんです。

そしてとりあえず、通貨がユーロになっててよかった・・と思います。もし未だにEU各国が自国の通貨で通していたら、この騒動でベルギーフラン安になった可能性もある訳です。嘘だと分かっても、やっぱり公共放送がこんなことするなんて、他国から見たら不安定要素ですから。一歩間違えてベルギーフラン暴落、失業率上昇・・経済的打撃が重なったら、暴動ものだったろうな。なんて考えると、ちょっとゾッとします。


*このロゴは、過去の人気番組であり、ドキュメント形式で様々な人の生き様を赤裸々に見せた"Strip-Tease"の、続編とされた"Tout ca (ne nous rendra pas le Congo)"に使われたものだそうです。

参考:
Le Soir "Le Choc RTBF"
Wikipedia "Émission spéciale de La Une du 13 décembre 2006"
Youtube:
フランスでの報道
オランダ語圏での報道
翌日のLa Deuxでの報道
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コメント
≪この記事へのコメント≫
NHKが
「東京でテロが起きた!」とかしてるようなもんでしょうか?
すごいですね。
そういう発想、企画段階で普通通らない(笑)
日本も
「議論になりそうな雰囲気を嫌う傾向がある」なぁと思いますが、
ベルギーもそうなのですね~。
教育段階から「議論」することに慣れていれば、「有効な議論」の仕方とか実行力とかも磨かれていくのかもしれません。
2006/12/17(日) 04:06:32 | URL | niko #-[ 編集]   
> nikoさん
NHKだったら、誰も受信料払わなくなりますよね・・(笑)
そうそう、ベルギーって(とりあえずフランス語圏は)そういうところは日本と似てると思います。まるく治めようとしますね。
議論大好きなフランス人と、すぐ隣の国で同じ言葉を話しているのに全然性質の違うベルギー人。やっぱり教育の影響は大きいです。
2006/12/17(日) 11:19:42 | URL | ydr #L.iXitw2[ 編集]   
為になるブログ
為になるブログいつも読ませていただいてます。このトピックの選択も「さすがydrさん!」とトキメキました。

この番組の翌日フランス語学校ではこの話題でもちきりでした。フラマンもワロンもお互いの損得や好き嫌いだけじゃなく「国としての利益」を第一に考えて将来性像を描けばいいのに・・。国の分裂・独立はゴールじゃなくてスタートだってことがかすんでるような気がします。

もしこの国が分断したら。うちは家を売って逃げるでしょう・・・。
2006/12/17(日) 23:12:48 | URL | アリンコ #kUr9nKys[ 編集]   
> アリンコさん
こんにちは!
あちこちの新聞とかで調べているうちにWikipediaでうまくまとめたページができちゃって、なんか骨折り損な気がしてます(笑)

EUの枠が、一刻も早く加盟国の格差を縮めて(ベルギーの遅れた部分の水準も上げてくれて)、その中で独立を叫んでもあまり有益ではないような状況に持って行ってくれることを祈るばかりです。

我が家も、ブリュッセルで暮らしにくくなったら行く先は大体決めてあったりします・・。
2006/12/17(日) 23:29:11 | URL | ydr #L.iXitw2[ 編集]   
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
2006/12/22(金) 11:28:05 | | #[ 編集]   
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
2006/12/22(金) 23:15:05 | | #[ 編集]   
On n'a pas le meme avis :)
De rien!
Si 90% n'y ont cru que pendant 3 minutes, comment expliques tu la quasi revolte contre la RTBF? ;)
Il est clair qu'on n'est pas d'accord: je pense que c'est trop facile de tout "servir tout cuit", les telespectateurs ne sont pas (ne doivent pas etre) des moutons. Je suis pour bousculer un peu (!) les gens de temps en temps: des belges affichent ENFIN leur attachement a la Belgique, des propositions de collaborations sont nees entre des journaux flamands et francophones, par exemple:
http://www.lesoir.be/dossiers/le_choc_RTBF/article_501015.shtml
Sans un petit choc, rien ne se serait passe. Il vaut mieux plusieurs petits chocs aujourd'hui, qu'un gros choc demain! Tu ne le ressens peut-etre pas, mais je peux t'assurer que les belges autour de moi en ont marre de ces insinuations contre les wallons/flamands, qui se passent quasi uniquement via l'intermediaire de la TV ou de la radio.
Au fait, ton avis de "preciser que c'etait une fiction des le depart", ce ne serait pas un compromis "a la belge"? (^_-)
2006/12/24(日) 23:54:00 | URL | Pierre #-[ 編集]   
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
2006/12/25(月) 12:10:34 | | #[ 編集]   
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